遅番日記

何とな〜く、何気な〜く、日々のこと

きっと届いてる

働き方だったり考え方だったりは人それぞれ。


ちょっと好きな言葉がある。


"思想は思考になって、思考はいつか言葉になる、

言葉は必ず行動になる、行動が自分になる"


とある研修に参加した時に

講師の方が言っていた。


前職の介護職をしていた時、ミーティングなどで僕も良く引用していた。

悲しい事に、スタッフさんの中では悲しい言葉を投げかける方がまだまだいた為、

↑の言葉はわりと有効だったと思う。

どんな意図があったとしても

それを言葉にしてしまうスタッフさんには

何度も何度も繰り返し説明した。


それでも悲しい出来事は起こる。


かつての同僚がニュースに出た。

内容はかなり衝撃的だった。

過酷な労働環境

割り切る事の難しい精神的な浮き沈み

限界を超えていた彼の内面は

僕なんかでは推し量ることのできない状態だったのだろう。

その後少しだけ続報が流れもした

所属していた会社の方々が対応に追われていたが

労働環境の改善

処遇の改善

お客様サービスの改善

などなど

やらなければいけない時に

しっかりと舵をきる事の出来なかった結果

この様な事を招いたという視点での弁明は

僕には見えなかった。

問題を起こしてしまった本人への訴追ばかり。

介護の会社とはなんなのかを世間から…

あくまで介護従事者から

問われていたはずだけど

その問いへのしっかりとした返答は無かった。


彼は自分よりも後に会社に入ってきた。

介護経験は無く、

当時でいう初任者研修を修了して、初めての現場だった。

気さくで明るく協力的で、

内包的な現場の雰囲気に色をもたせる事の出来る人だった。

利用者さんにも優しく、

ご家族からも信頼を得ていて

スタッフからも嫌な話しは出ていなかった。

発言する時も、

とても言葉に気を配っていて

角の立つような物言いは決してしなかった。


20歳下の同僚と結婚した。突然だった。

式にも呼ばれ、深夜まで幾人かで飲み明かした。

とても幸せそうに見えた。

その日は同じホテルに部屋をとって

朝方まで色んな事を話した。

寝たらチェックアウトの時間に起きられないかと思い、

部屋には戻らずホテルの裏側にある庭園で酔い覚ましをしていた。

そこに新婦と部屋に帰ったはずの新郎がやってきた。

窓から見えたから…と


彼から

『介護を続けていけるのか不安だ』

と打ち明けられた。

何かあったのか何に迷っているのか聞いても

具体的な返答はしてもらえなかった。

『〇〇さんの様になりたかったんだ』

突然そんな事を言われた。

自分が認めている人から

最大の賛辞を送られて

アルコールが入っていた事もあって

舞い上がった。

悔やんでも悔やみ切れない。



3ヶ月後

ニュースが流れた。

名前をみて、何度も確認した。

何度も…なんども…ナンドモ…

本人にはもちろん奥さんにも連絡がつかなかった。

アパートにも行った。

空気が違った。とてもインターホンを押せる空気じゃなかった。

夜まで待ったが明かりはつかず、静まりかえっていた。

玄関先に置かれていた真新しいはずのベビーカーが

一瞬で色褪せたようだった。


次の日、最後に奥さんと連絡をとったという同僚と話せた。

"主人がご迷惑をお掛けしました"と

嗚咽をもらしながら繰り返していたそうだ。

奥さんは子供を連れて、安全な所にいるとの事だった。

それ以上の話しは何も聞けなかった。


一緒に働いていたという事で、

会社から何か知らないか事情を聞かれた。


…激昂した。

立場や関係性など関係なかった。

会社にもそうだったが

何より自分自身に。


その後私は部署が移動になり、降格となった。

会社を辞めた。


10ヶ月後、彼の奥さんから連絡があった。

行方がわからなくなったという事だった。

捜索願いを出したが、見つかっていない。

精神的な事から仕事にもつけず

生活は困窮を極めていた。

周りからもなかなか援助してもらえず

国からの援助に頼っていた。

知っている人のいない土地へ引っ越し

新しく生活を始めたが

本人は働けるはずもなく

奥さんが働きに出た。


初日のパートから帰った家には

生後11ヶ月の長女が泣き疲れて眠っていた。


事件から8ヶ月の事だった。


俺に連絡がきたのは

奥さんの前から姿を消して

2ヶ月がたっていた。


連絡がないか?

心当たりがないか?

何か思い出せないか?

わかる事は何でも話した。

ひどく疲れていたのがわかったが

何も出来る事がなかった。


名前でググってみたり

会話していた時に聞いた、以前住んでいたらしい土地の駅にも行ってみた。

駅前で何時間も座っていたが、姿は見られなかった。


3年と4ヶ月がたった。


昨日、手紙がきた。

差出人は書いてなく、消印は知らない地名。

心当たりがない手紙だったのが、心当たりだった。

身体の内側から熱くなった。

まだ開いてもいないのに

こういう時って何故か確信している。


文面は一行

謝罪の言葉だけだった。


鼻の奥が痛くなった

人の体温とは思えないほどの物が

視界を滲ませる


ずっと謝りたかった

許しを乞うていたのは俺の方なのに

何故俺に謝る


住所を書いてくれていた。

会いに行くなら、全く土地勘のない場所への遠路となる。


同じ空の下で

続いてる道の向こうで


もう少しだけ待っていてくれるだろうか。